生産技術アドバイザーの柏木徹です。
中小の製造現場を回りながら、接着剤やグリス、シール剤の塗布工程の改善をお手伝いしています。
現場に入って工程を見せてもらうとき、私が最初に聞く質問がひとつあります。
「この塗布量、どのくらいのバラつきがありますか」です。
返ってくる答えの多くは「特に問題は出ていません」「見た目では分かりません」。
つまり、数値としては誰も把握していないということです。
不良が出ていないなら結果オーライではあります。
ただ、数値を持っていない工程は、異常が起きたときに原因まで一気に遠くなります。
今回はそのあたりの話をさせてください。
「見た目で分かる」は管理ではない
熟練の作業者ほど、塗りすぎや塗り不足を目で見抜きます。
これは本当にすごい技能で、私も現場で何度も助けられてきました。
ただ、目視で分かるのは「明らかにおかしいとき」だけです。
規格の中でじわじわ平均が動いているような変化は、まず気づけません。
そして目視には、決定的に困る性質があります。
数字として残らないので、人に引き継げず、上司にも説明できないという点です。
設備投資を通したいのに根拠が出せない、という相談は本当に多いです。
その原因はたいてい、投資の必要性ではなく、現状を語る数値がないことにあります。
塗布量は重量で測ると数値になる
いちばん手軽なのは、ショットごとの重量を測る方法です。
電子天びんの上に受け皿を置き、規定条件で何ショットか吐出して重さを記録するだけです。
記録したら、最低限この3つを出します。
- 平均値(狙った塗布量からどれだけずれているか)
- 標準偏差(どれだけばらついているか)
- 上限規格と下限規格に対する余裕
ミツトヨの品質管理の基礎知識でも、ばらつきの大きさは標準偏差で表すと整理されています。
平均からのずれ(かたより)とばらつきは別物なので、分けて見るのが基本です。
余裕があれば工程能力指数まで出しておくと話が早くなります。
Cpは公差を工程能力で割った値ですが、平均の位置を考慮しません。
規格中心とのずれまで含めて見たいならCpkのほうを使います。
測定頻度は、まずは1日1回、朝と昼で2回でも十分です。
大事なのは精度より、同じ条件で取り続けることのほうです。
数値にすると、原因のほうが見えてくる
数値を取り始めると、たいてい面白いことが起きます。
「朝一のショットだけ軽い」「夏場だけ平均が上がる」といった規則性が浮かび上がってくるのです。
この手の変動で圧倒的に多い原因が、温度による粘度の変化です。
液体の粘度は温度が上がれば下がるという関係にあり、粘度測定の方法もJIS Z 8803として規格化されています。
規格の内容は日本産業標準調査会(JISC)のサイトから確認できます。
厄介なのは、タンクに入れたときの液温と、ノズルから出る瞬間の液温が違うことです。
配管やミキサを通る間に冷えれば粘度は上がり、同じ設定でも出る量は変わります。
もうひとつよく見つかるのが気泡です。
詰め替えのときに巻き込んだ空気や、液中に溶けていたガスが原因で、吐出が一瞬抜けます。
ナノレベルの気泡は目で見えないので、これも数値でしか捕まえられません。
装置の方式によって、バラつきの出方が違う
原因が見えたら、次は装置側の話になります。
実は吐出の方式によって、粘度変化に対する強さがまったく違います。
エアシリンジ方式は、空気圧をかける時間で吐出量を決めます。
仕組みが単純で扱いやすい反面、粘度が変われば同じ時間でも出る量は変わります。
一方、容積計量方式はピストンの径とストロークで吐出量が決まります。
体積で押し出すので、粘度が変動しても量が動きにくいという特性があります。
| 方式 | 吐出量の決まり方 | 粘度変化の影響 |
|---|---|---|
| エアシリンジ方式 | 圧力と時間 | 受けやすい |
| 容積計量方式 | ピストン径とストローク | 受けにくい |
つまり、温度管理でも直りきらないバラつきは、方式の選定そのものを見直す余地があるということです。
方式の違いや装置の構成については、ディスペンサーがどんな装置なのかを解説したページが分かりやすくまとまっているので、選定の前に一度目を通しておくと判断がぶれません。
まとめ
塗布量の管理でやることは、そう多くありません。
- ショット重量を測り、平均と標準偏差を出す
- 同じ条件で取り続けて、変動の規則性を探す
- 原因が粘度変動なら、温度管理か吐出方式を見直す
天びんひとつあれば今日から始められます。
不良が出てから慌てるより、数値を持っておくほうがずっと楽です。
まずは1週間、記録を取ってみてください。
自分の工程の顔つきが、はっきり見えてくるはずです。
最終更新日 2026年8月5日 by mindmj