ディスペンサからの塗布量が安定せず、不良品の山を前に頭を抱えてはいませんか。
糸引きや液だれが止まらず、生産計画が思うように進まないと、焦りを感じていらっしゃることでしょう。
その気持ち、痛いほどよく分かります。
私も若い頃、自分が担当した接着工程で、わずかな塗布ムラが原因でリコール寸前の事態を引き起こし、連日連夜、顕微鏡とにらめっこした経験がありますから。
ご安心ください。
この記事を最後まで読めば、高価な最新設備に頼ることなく、あなたの現場で明日からすぐに実践できる「ディスペンサ精度向上の3つの着眼点」が明確に分かります。
はじめまして。
「一滴の価値を最大化する、液剤吐出の仕立屋」こと、的場 巧と申します。
これまで国内外500以上の工場で、ディスペンサに関するあらゆるお悩みを解決してきました。
今回は、私が現場で培った全ての知見を、同志であるあなたと共有することをお約束します。
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Contents
なぜあなたのディスペンサは安定しないのか?【原因の特定】
「最新のディスペンサを使っているのに、なぜか精度が安定しない」。
多くの現場で、こうした声を聞きます。
その原因は、機械の性能そのものではなく、多くの場合、見落とされがちな「3つの変動要因」に隠されています。
要因1:液剤の「機嫌」- 見過ごされる温度と粘度の関係
液剤は、非常にデリケートです。
特に、その粘度は温度によって大きく変化します。
これは、冬場に蜂蜜が硬くなり、夏場に柔らかくなるのと同じ原理です。
例えば、朝一番で稼働させたラインと、工場全体が温まった午後とでは、同じ圧力設定でも吐出量が微妙に変わってしまうことがあります。
季節による室温の変化はもちろん、空調の風が当たるかどうかといった些細なことでも、液剤の「機嫌」は変わってしまうのです。
この一見わずかな粘度の変化が、製品の品質を左右する大きなバラつきに繋がります。
要因2:装置の「疲労」- ノズル・チューブ・圧力の経時変化
毎日使う道具が少しずつ摩耗していくように、ディスペンサも稼働する中で少しずつ「疲労」していきます。
特に、液剤が直接触れるノズルの先端は、目に見えないレベルで摩耗したり、微細な詰まりを起こしたりします。
また、液剤を送り出すチューブも、長期間の使用で硬化したり、内径が変化したりすることがあります。
供給エアの圧力が、コンプレッサーの稼働状況によってわずかに変動することも珍しくありません。
こうした一つひとつの小さな経時変化が積み重なり、気づかぬうちに吐出精度を蝕んでいくのです。
要因3:環境の「揺らぎ」- 振動やコンタミという静かなる敵
あなたのディスペンサは、どのような環境に置かれていますか。
例えば、すぐ隣でプレス機が稼働しているような場所では、その振動がディスペンサに伝わり、精密な吐出を妨げている可能性があります。
もう一つ、見落としがちなのが、供給エアに含まれる水分や油分といった不純物(コンタミ)です。
これらが圧力調整弁やバルブに付着すると、正常な動作を阻害し、圧力の不安定化を招きます。
まるで、私たちの血管にコレステロールが溜まるように、エア配管の中の「汚れ」が、装置全体のパフォーマンスを静かに低下させているのです。
明日からできる精度向上の処方箋【解決策の選択肢】
原因が分かれば、打つ手は見えてきます。
ここでは、特別な工具や大きな投資を必要としない、明日からすぐに取り組める具体的な対策をご紹介します。
対策1:液剤を「仕立てる」- 簡易的な温度管理術
液剤の「機嫌」を一定に保つには、温度管理が最も効果的です。
もちろん、専用の温調装置を導入するのが理想ですが、まずはもっと簡単なことから始めてみましょう。
例えば、液剤のシリンジやタンクを、段ボールや発泡スチロールで囲うだけでも、外気温の変化を緩やかにする効果があります。
「そんなことで?」と思われるかもしれませんが、こうした地道な工夫が、安定した品質への第一歩となるのです。
対策2:装置を「労わる」- “観察”から始める予防保全
装置の「疲労」にいち早く気づくためには、日々の点検、つまり装置を労わることが欠かせません。
重要なのは、交換基準を明確にすることです。
「まだ使えるから」ではなく、「〇時間稼働したら交換する」「〇個生産したら清掃する」といったルールを定め、それを徹底するのです。
特にノズルの清掃は、品質を維持するための最も重要な儀式と言っても過言ではありません。
始業前や休憩時間、材料交換のタイミングで、ノズル先端の状態を確認する習慣をつけましょう。
対策3:環境を「整える」- 設置場所の見直しとエア配管の確認
もし可能であれば、ディスペンサを振動の少ない場所に移動させることを検討してみてください。
設置場所を変えるだけで、精度が劇的に改善した例を、私はいくつも見てきました。
また、エア供給源の近くにあるフィルターやドライヤーの状態も定期的に確認してください。
フィルターに水や油が溜まっていたら、それは品質低下のサインです。
エア配管の末端で、白い紙にエアを吹き付けてみてください。
もし油分が付着するようなら、早急な対策が必要です。
何から始めるべきか?【的場のおすすめと、その理由】
ここまで多くの対策をお話ししましたが、「一体、何から手をつければいいんだ」と感じられたかもしれません。
もし、あなたが最初の一歩に迷われているなら、私から一つだけ、一番のおすすめをお伝えします。
それは、「ノズル先端の定点観測」です。
実は私には、手痛い失敗談があります。
若手時代、あるお客様に最新鋭の高価なディスペンサを提案し、導入していただいたことがありました。
私は「これで全て解決する」と信じ込んでいました。
しかし、結果は散々でした。
現場のオペレーターは複雑な操作に戸惑い、かえって生産性を落としてしまったのです。
コストをかけたにも関わらず、不良は一向に減りませんでした。
この手痛い失敗から、私は一つの哲学を学びました。
「最高の機械が最良の解決策とは限らない。現場の『人』と『環境』に寄り添わない技術はただの鉄の箱だ」と。
高価なセンサーや監視カメラを導入する前に、私たち自身の「目」でできることが、実はたくさんあるのです。
やり方は簡単です。
お使いのスマートフォンで、毎日、始業前の同じ時間に、ノズルの先端を接写で撮影するだけ。
それを1週間も続ければ、「昨日はなかった液剤の滲みがあるな」「先端の摩耗が少し進んだかもしれない」といった、これまで見過ごしていた小さな変化に気づくはずです。
この「気づき」こそが、すべての改善の出発点となります。
まとめ
今回は、ディスペンサの精度を上げるための現場改善についてお話ししました。
- 精度不良の三大要因は「液剤の機嫌」「装置の疲労」「環境の揺らぎ」にある。
- 対策の基本は「温度管理」「予防保全」「環境整備」の3つ。
- 何から始めるべきか迷ったら、まずは「ノズル先端の定点観測」から。
不良品が一つ減れば、コストが削減できるだけでなく、何より現場で働く皆さんの精神的な負担が軽くなります。
華やかな技術革新も素晴らしいですが、現場での地道な観察と工夫こそが、日本のものづくりを支える本当の強さだと、私は信じています。
一滴を笑う者は、一滴に泣くことになりますよ。
まずは、あなたの現場のディスペンサのノズル先端を、明日の朝、始業前に5分間だけじっと見つめてみてください。
きっと、多くのヒントが見つかるはずです。
結局のところ、答えはいつも現場にあります。
最終更新日 2025年9月17日 by mindmj